となりの音楽家

ひとりごと

クロイツェルソナタ
となりの音楽家のお友達、山の音楽家の小リスさん。

 

  今、ヤナーチェクが作曲した弦楽四重奏曲“クロイツェルソナタ…”に取り組んでいる。“クロイツェルソナタ”とはベートーベンが作曲した有名なヴァイオリンソナタである。この曲の目玉はなんと言っても第一楽章であろう。ヴァイオリンとピアノが肉薄し、激しくせめぎ合う。
その激しさは時に男女の絡み合いをも想起させる。それぞれ著名なピアノニストA女史とヴァイオリニストKの演奏が大層な話題にもなったのも肯ける。

  ロシアのトルストイが書いた小説に“クロイツェルソナタ”がある。その小説の中心人物は封建的なロシア貴族。貞淑さを求め、関係も冷え込んでいた妻が、ヴァイオリン二ストと“クロイツェルソナタ”を演奏する時に垣間見せた生き生きとした表情から、彼の心の奥に不倫の疑惑が生じる。疑惑は彼の中で増殖し、ついには妻を殺してしまう。その心情を赤裸々に語るといった内容となっている。

   

  ヤナーチェクはこの小説からインスピレーションを得て作曲したのが、弦楽四重奏曲“クロイツェルソナタ…”である。
人の心の内には、嫉妬、独占欲、執着など、否定しようとするが理性的に解決することができない不合理な面が存在する。醜く、人間の根源に根ざす?負の感情と言ってもよいこの類のことには、深く関わっても得るものは少なく、日常では誰しも注目したくない。芸術では、美しいもの、心地よいもの、人間を賛美することを主題としてきた。大衆芸術では今も、多分これからも変わらない。この負の感情を主題としたものは文芸、美術、演劇などの分野では散見されるものの、音楽ではきわめて少ない。となりの音楽家は以前公務員をしていたが、その勤務規定に「勤務時間内に歌舞音曲の類はしてはならない」とあったのも宣なるかな。音楽ではいつも美を求めており、邪まな負の感情は趣向として使われてはいたが、主要なテーマとはならなかった。


  ヤナーチェクは偉大(変?)である。彼は“クロイツェルソナタ…”でこのテーマに真正面から取り組んでいる。ということで、“クロイツェルソナタ…”の演奏は難しい。美しくなく、激しく、妖しげにどこまでも演奏を続けなければならないから、、、
解決のない音楽、この曲がわずか15分で終わるところが救いである。

  あなたは人の醜い面をテーマにした、美しくない音楽をどう思いますか?

   

 

  (10106: 2009.6/1)  

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