一弦琴
 

  先日、高校の同窓会があり、京都に出かけた。二次会に島原へ行くとのこと。島原が由緒のある歓楽街で太夫という花魁(おいらん)がいて、時折ニュースで少女の禿(かむろ)が付き従って練り歩く花魁道中を見たことがあるくらい。吉原がどこにあるかも知らなかった。話の種にでもと、いつもは行かない二次会に付いていった。

  すっかり観光客になり、“輪ちがい屋”という建物を見学し、近藤勇の書など鑑賞してから、水割りを片手に“花魁ショー”なるものを観賞した。ロウソクの揺れるほのかな明かりの中繰り広げられる“花魁ショー”は幽玄の世界そのもので、時間を忘れて堪能した。一弦琴(いちげんきん)はその際演奏されたものである。一弦琴は琴を小さくしたようなもので、左手の指で弦を押さえて音程を取り、右手の指で弦を弾いて演奏する。演奏曲は一弦琴を奏でながら歌う小唄のようなもので、一弦琴のメロディーは小唄の三味線のメロディーラインとよく似ていたが、琴より共鳴箱が小さい性か、高い音が心地よく響くように思われた。

   

  花魁に聞いたところ一弦琴の弦は絹であった。琴、三味線など和楽器のはほとんど絹である。絹の弦は大きな音こそ出ないが、響きに日本人の感性に溶け込む品格がある。

  ちなみに、中国の琴や胡弓のも絹だ。馬のしっぽの毛で絹の弦を擦って音を出す胡弓はそもそも蒙古が起源といわれている。西洋音楽のヴァイオリン族の楽器の起源も蒙古の馬頭琴といわれている。馬頭琴は馬のしっぽの毛で羊の腸の弦を擦(こす)って音を出す。遊牧民族の蒙古では馬と羊はごくありふれた生き物だった。ヨーロッパでも馬と羊をありふれており、そのまま発展してヴァイオリンが生まれたとされる。それに対して中国では羊があまりいなかったためか、羊の腸が絹に置き換わったのだろうか?それが、日本に伝わり、邦楽の弦楽器の元となった。

  時折聴く邦楽は、西洋音楽にどっぷり浸かっている私の心を落ち着かせてくれる。あなたにとって邦楽はどんな存在ですか?

  (TNVN 2001.10.27.)